※写真のモデルはイメージになります。
柔道整復師など手技を通して医療に関わる方にとって「見て学ぶ」ということ、武道や武術などでいえば「看取り稽古」というのは、非常に大切だと私は考えています。
今回のコラムでは、この「見て学ぶ」ということをテーマにスポットを当てていきたいと思います。
学生の方は臨床実習、すでに現役の方は臨床現場などにお役立ていただければ幸いです。
「見て学ぶ」ということの本質について
私は約40年、筋肉専門の治療を行ってきました。
駆け出しの頃は「見て学ぶ」ということに重きを置き、朝一番に来院し掃除を終え治療が始まると閉院時間までじっと見続けました。
まずはじめに見たものは、手技の方法です。
マッサージをはじめ、鍼灸、整体などにおける術者の手の操作です。
次に見えてきたものは、指圧する場所や針を打つポイントなど、病態によって異なる刺激部位です。
(この段階ではすでに治療の手技を学んでいることが前提となります。)
さらに数ヶ月見続けると、手技に対する患者さまの反応が見えてくると思います。
この患者さまは「痛がっている」「嫌がっている」「いや気持ちよさそうだ」「治療を受け入れている」など、刺激に対する患者さまのリアクションです。
数年もすると、
・本当の原因はどこにあり、本当はどこをどのように刺激してほしいのか
・どのような手技で、どれほどの刺激を受けたいのか
・そろそろ治療を終えてほしいのか
などを感じ得るようになりました。
もちろんただ見ているのではなく、「何を見ようとしているのか、何が見えているのか」といった見る側の能動的な意志や感性が重要です。
臨床に携わるようになったとき、この意志や感性が治療の良し悪しを決定づけたように思えます。
しかし最近では私たちの業界で「見て学ぶ」という学び自体の重要性が忘れられてきているように思えます。
これは学ぶ側にも教える側にも言えることです。
私の若い頃は技術習得セミナーが盛んにおこなわれていました。
最近のセミナーでは、技術習得セミナーよりも集客セミナーが多いように感じます。
よくあるケースが、来院数が多い接骨院の先生方が主催する、収益アップセミナーです。
またYouTubeやSNSによって医学的根拠が明瞭でない手技手法が多く公開されています。
「ここを押すと五十肩は治る」「この筋肉はこのようにすると緩む」「ほうれい線はこうすれば消える」など、いろいろあるかと思いますが、本来はその手技の生理、解剖学的根拠を含めて伝えるべきではないでしょうか。
私は多くの先生方はこれらをただ真似ているように見えてしまっています。
そして、いざ分からないことに直面すると、スマホなどでサクッと検索するだけで、本や文献を読み漁り自分の頭で考えることは稀になってしまっているようにさえ感じます。
治療家であれば、患者さまを治すことが目的であるハズです。
しかし、いつの間にか患者さまの受け入れを増やし、収益を上げることが目的になってしまったのではないでしょうか。
これは指導者側の責任でもあると思っています。
患者さまを増やし収益を上げなければ、修行をしたいと考えている従業員を雇い入れることは難しいかもしれません。
そのため、治療技術習得のための勉強自体が収益確保のための即戦力になるような教育システムを構築しているのではないでしょうか。
意志や感性の重要性を忘れてしまい、本来の学びから逸脱してしまっているのではないかと私は感じています。
私の考える「見て学ぶ」とは
技術教育において感性を養うことは非常に大切です。
治療は捻挫や挫傷あるいは腰痛や肩こりなどで起こる痛みや痺れ、その他の異常感覚に上手く対応しながら原因箇所を探し出し、その箇所を改善させなくてはなりません。
さらに言えば、治療は、生活習慣や性格、さらには病態も痛み方も異なる方へ対応しなくてはなりません。
術者の手技により、
・この先生は悪い部分を的確に見つけてくれるから、痛くても我慢しょう
・この先生なら安心できるから、痛い痛くない関係なく、すべて受け入れよう
などの思いを導くことで原因となる箇所への刺激を受け入れ、ときとして強い刺激も受け入れてくれるのです。
さらに「この先生なら治してくれる」という安心感が治癒能力を高めてくれるのです。
第三者の立場で少し離れたところから治療を見続けることで、手技に対する患者さまの反応を読み取り、患者さまの想いを読み取る感性が得られます。
患者さまの病態を精査せず、機械的に治療手技を適応して一方的に刺激を与えてはいけません。
それによって患者さまは痛みに耐えられないかもしれず、違和感で全身が緊張し「逃げたい」「治療を受けたくない」と感じてしまうかもしれません。
患者さまの病態をカテゴリー化して、それに対応した一定の手技を教育することは、一見効率的な指導法であるかもしれませんが、それで治すことができたとしても、それは偶然でしかないと私は考えます。
治療は一時的な改善であってはいけません。
その患者さまの日常生活や社会的要因をも理解した上で、どのような手技で刺激を行い、その刺激の強さ、刺激の頻度を考えながら病態を再発させることなく改善させていくかを考えなくてはなりません。
治すのは患者さま自身であり、私たちは治癒していく方向に導く刺激を与えるだけなのです。
そのためには患者の反応を読み取る感性を磨く必要があります。
これは意志を持って「見る」という学びで養うことが出来るのです。
まとめ
ぜひこの機会に、ご自身の環境を振り返ってみてください。
もしあなたが本物の治療技術を求めているのなら、安易に技術を習得する考えを捨てるべきです。
第三者の立場で治療を見て学び、そこで養った感性は、裏切ることなく将来にわたってあなたを助けてくれるはずだと私は信じています。
柔道整復師・アスレチックトレーナー・柔道整復師専科教員
中辻 正 先生
【経歴】
岐阜・東京 リニューイングセラピー 筋活性化研究会 会長
岐阜大学医学部解剖学分野特別協力研究員
perfume専属主任トレーナー
1958年生まれ。柔道整復師として活躍し、「Renewing Therapy(リニューイングセラピー)」を東京・岐阜にて開院、女優/モデルなど著名人が多数通院、その効果が話題に。老化した筋肉の改善をテーマとし、顔を含む全身の老化防止と痩身、筋治療に大きな効果を上げている。現在は筋活性化研究会を開設し筋治療の普及に邁進している。