※写真のモデルはイメージになります。
柔道整復師の木下と申します。
今回はこちらの柔性ドットコムで「スタッフ育成」や「スタッフマネジメント」をテーマにコラムを書こうと思います。
前回は「リーダーシップ」について私の意見を書かせていただきました。
接骨院院長に求められるスキルの1つだと私は考えてますので、ご興味があれば是非前回分もご覧ください。
柔道整復師の資格で勤務している人数は、これまで2年ごとに約4,000~8,000人前後のペースで増加してきましたが、2020年には3,000人を下回り、施術所増加数はコロナの影響もあって80%低下し、287軒になりました。
あくまで増加数なので減少はしていないのですが、これを見て将来に不安を持つ柔整師も多く、逆にこれを好機としてとらえている柔整師もいるようです。
こちらの柔整ドットコムのコラムでは、整形外科で勤務することを勧めておられる執筆者がおられます。
私も開業前の4年間は整形外科にて勤務させていただき、何千枚ものレントゲン写真を読影し、ギプスを巻いたり、手術に関してお手伝いをさせていただいたりして、医療機関でなければできないことを勉強させていただきました。
院長は京都大学出身の非常に優秀な整形外科医でしたが、その整形外科で勤務し研修することはとてもいい経験となりました。
今でも忘れられない院長との会話があります。
鍼灸治療をアレルギーに使うことについて説明していた時に「鍼によってIge抗体のレベルはどうなるのですか?」と質問されました。
私は何も答えられませんでした。
いかに自分が抽象度の高い(いい加減な)認識で医療を考えていたのかということを思い知りました。
その恥ずかしい経験によって逆に視野が広くなり、医療制度全体の中で柔道整復師がどのような役割を果たすべきかを常に考えて行動するようになりました。
その後、私は柔道整復師の役割として整形外科を補完することが重要で、それが患者さまのためになっていると考えて仕事をしてきました。
整形外科はどんなことをするのでしょうか。
整形外科医の業務範囲は柔道整復師が考える以上に広く深いです。
整形外科領域の中でも上肢、下肢、体幹など専門分野が分かれており、整形外科領域以外にもRed Flagsともいわれる循環器疾患や進行性の病気など整形外科領域以外の疾患もあり、整形外科医もいろいろな医師と連携し、自分の得意分野で力を発揮できるようにしています。
柔道整復師はWHOによって、日本の伝統医療(Judo Therapist)として報告されました。
伝統医療は開発途上国からアメリカやヨーロッパなどの先進国に至るまで広く普及していて、それは近代医療を受診できるかどうかに左右されません。
アメリカでは1992年に伝統医療を研究する組織が国立衛生研究所内に設置され、1998年に名称を「国立補完代替医療センター:NCCAM」として独立機関となりました。
2014年12月に「代替」という言葉を外して「国立補完統合衛生センター:NCCIH」と名称を変え、安全性と有効性が証明されていない療法や関連製品をどのような健康上の問題に対しても、通常の治療の代わりにしたり、医師による診察を先延ばしする理由としたりしないよう勧告しました。
同様にWHOによる伝統医療の呼称からも「代替医療」が外されました(※1)。
伝統医療に求められているのは、近代医療に代替することではなく、補完することのようです。
若く未来のある皆さんがキャリア形成を考えるときに自分が医療制度の中の一員であり、柔道整復は医療の一部分を補完しているという立場を理解してほしいと思います。
それは医療全体を味方として考えることであり、患者さまを大切にすることでもあります。
そして、患者さまから柔道整復師に整形外科の補完を求められるということは、特定の分野では柔道整復師のほうに優位性があることの証明でもあります。
以下では、その優位性について私の考えを述べさせていただきます。
上井先生(※2 ※3)という整形外科医は、腰痛の診察の際、必要な診断の手順によって重篤な疾患を見逃さないように危険信号 (Red Flags) を念頭においた診察を行なったうえで、それら以外の腰痛は形態的異常(X 線・CT・MRI 検査の異常)などの脊椎障害のみで取り扱うのではなく、器質・機能障害を呈する生物・心理・社会的症候群として治療すべきだと発表しておられます。
つまり、腰痛には脊椎の問題だけではなく、その患者さまの背景にある社会や心理が影響しているというのです。
この社会や心理という分野でいうと、柔道整復師は患者さまと同じ地域に住んでいて社会的な距離が近いといったこともありますし、同じスポーツ競技の経験があって選手としての心理を理解し寄り添ってあげられるということもあるかもしれません。
医療機関に比べて開院時間の長い接骨院は、時間的な補完として仕事で医療機関に通院できない就労世代の患者さまの受け皿になっており、職住一体であれば、夜間に骨折や脱臼で来院され応急処置をすることがあります。
また場所的な補完として、専門性を持つ医療機関が近くに無いスキー場で骨折や脱臼の応急処置を行っている柔道整復師もおられます。
有訴者数の多い腰痛に絞っていえば、 Red Flagsではない軽症の腰痛に対して柔道整復師の力を発揮して治癒に導くことも大切な業務だと思います。
軽医療(※4)ともいわれるこの領域では患者さまは、症状の強さにもよるのですが、以下のような選択肢を持っているといいます。(※5)
・整形外科に行く(自分で身体のリスクを判断できない場合)
・接骨院・鍼灸院に行く
・ドラッグストアで売薬を買う
・我慢して医療機関へ行かない
接骨院を選択してくださった患者さまに、効果的な施術をして、信頼してもらえることが成功のために大切です。
柔道整復師にとしてこれからの厳しい時代を生き残っていくために、このような患者様から求められているスキルを、医療制度全体を俯瞰して見つけることが、キャリアを積むうえで大切なことだと思います。
私が考える整形外科の補完機能を考えたときに柔道整復師に求められるのは、次の項目だと考えています。
そして、その後に書いている患者さまへのインタビューによるニーズ調査とも合致しています。
・開院時間・対応時間の長さ
・骨折・脱臼の応急処置技術
・Red Flagsなど柔道整復師の業務範囲外の疾患を見抜く能力
・紹介状作成による医療連携と返信による情報共有と知識の蓄積
・軽症の筋骨格系の痛みへの確実で再現性のある施術
ある調査のため、2名の患者さまへインタビュー調査を行いました。
1人は腱板損傷で来院され病院に紹介し手術となりました。
もう1人は腸腰筋膿瘍で2週間の入院となりました。
どちらの方も接骨院を最初に選択したことは間違いではなかったとおっしゃっていました。
そして、仕事をしておられるお2人が接骨院を選択した理由として、次のような項目をあげておられました。
・開院時間が長く、通院しやすい
・軽度の疼痛に対して整形外科では薬だけの治療になることが多く、できれば薬に頼りたくない
・体を傷つけない非侵襲性の施術のほうが自分に合っている
・必要があれば医療連携して専門医に紹介状を書いてくれる
・話しやすく、相談・質問しやすい
患者さまのお話を聞いていても、柔道整復師本来の役割は、筋骨格系の痛みを確実にとることと医療連携による医療の補完のようです。
私は今年56歳ですが、まだまだ自分自身のキャリア形成続けており、医師との良好な関係性を作りつつ、筋骨格系の痛みを確実にとれる方法を学び続けています。
皆さんのキャリア形成の成功を心より祈念いたします。
《参考資料》
※1 World Health Organization. Traditional and complementary medicine in primary health care. World Health Organization.
※2 日本整形外科学会/日本腰痛学会 南江堂 腰痛診療ガイドライン 2019(改訂第2版)
※3 上井浩 日大医誌 腰痛診療ガイドライン2019の要旨と解説
※4 井伊雅子/大日康史 療経済学会雑誌/医療経済学会 医療経済研究機構編 軽医療における需要の価格弾力性の測定
※5 大森正博 柔道整復師サービス市場の産業組織-急増する柔道整復師の需要と供給に関する研究
柔道整復師・専科教員・鍼灸師・介護支援専門員・寿晃整骨院総院長
木下 広志 先生
【経歴】
整骨院3年、整形外科4年研修後、平成4年開業、朝日医療大学校にて非常勤講師を12年間勤める。50歳で岡山大学経済学部に入学、岡山大学大学院ヘルスシステム統合科学研究科で伝統医療と近代医療の関係性を研究、令和4年度博士前期課程修了する。
公式ホームページ:
寿晃整骨院 https://www.jukou3.com/